2017.08.23
2日目もコスモポリタンな顔ぶれに。TRI4THは今年実施した「東京JAZZ in フランス&デンマーク」にて、初のヨーロッパツアーを成功させ、着実にキャリアを積んでいる実力派グループ。切れ味のいいハード・バップなスタイルにぐいぐい引き込まれます。
そして、イスラエルから最先端なミュージシャンも登場します。まず、ラビット・カハラーニ率いるイエメン・ブルースは、ジャズ、ファンク、ロック、ダンスミュージックを融合させたミクスチャー・バンド。8月発売の新作はビル・ラズウェルがプロデュースを手掛け、個性派スタイルを貫いています。
私も楽しみにしている、ヤロン・ヘルマンとジヴ・ラヴィッツのデュオも紹介しましょう。同じく共にイスラエル出身で、若いプレーヤーですがキャリアも十分。ヤロン・ヘルマンは今年ブルーノートから新作を発表、感度の高いリスナーから支持を集めています。
ジヴ・ラヴィッツは今回、NHKホールでシャイ・マエストロ・トリオに参加しますが、ヤロンとのデュオでどんなビートを叩くのか楽しみで仕方ありません。例えばブラッド・メルドーとマーク・ジュリアナのようなプログレッシブな演奏に震えたリスナーにもおすすめ。
夜になれば、渋谷の老舗クラブ「The Room」のオーナーであり、DJとしても活躍する沖野修也が、The Room 25周年を記念した豪華グループ・The Room All Starsにスペシャル・ゲストのMonday満ちるを迎え、ハービー・ハンコック、ジョージ・デューク、ファラオ・サンダースなど、90年代以降のクラブ・シーンを彩った名曲を演奏します。沖野氏も「クラブを卒業した大人達に来てほしい」と語るように、かつて90年代を渋谷で過ごした世代は、たまらない夜になるでしょう。
3日目もすごいステージが用意されています。まず「WWW」に登場するThe Quartet NL.は、聴いたことがないグループ名だと思いますが、そのメンバーにジャズ・ファンは驚きを隠せません。ピーター・ビーツ、ベンジャミン・ハーマン、エルンスト・グレラム、ハン・ベニンクといったオランダ・ジャズ・シーンを代表するプレーヤーが集結しているのですから。ヨーロッパらしいハード・バップやフリー・ジャズも得意な面々だけに、ライブハウスならではのエネルギッシュなステージに期待したいです。
コーリー・ヘンリーは、NHKホールでは挟間美帆率いる「JAZZ100年プロジェクト」にも出演しますが、単独となるステージは貴重。グラミー賞も受賞したスーパー・グループ、スナーキー・パピーの鍵盤奏者としても知られていますが、今回はThe Funk Apostlesを従えて、ジャズ、ソウル、ファンクを縦横無尽に往来するサウンドで魅了してくれるでしょう。
そして、この日の「WWW X」は、ある意味、今回の東京JAZZを象徴するステージかもしれません。カフカ鼾は、ジム・オルーク、石橋英子、山本達久という玄人好みのミュージシャンによるトリオです。ジム・オルークといえばシカゴ音響派以降、ロックにとどまらず精力的に活動する鬼才、石橋英子や山本達久は、むしろ海外での知名度の方が高いかもしれませんが、今後のジャズ界を盛り上げる注目プレーヤー。ピアノとドラムと電子音の即興で繰り広げるスタイルが、未知なる扉を開けてくれるはずです。
トリはご存知、fox capture plan。結成は2011年と最近ですが、ドラマ「カルテット」の音楽も担当し、人気も評価もうなぎ登りです。テクノやポストロック的なビートと、流麗なピアノのフレーズ、ウッド・ベースのグルーヴも抜群。ジャズという言葉では通用しない、21世紀らしい見事なサウンド・デザインで、ピアノ・トリオという概念も払拭してくれるでしょう。
このように、3日間にわたり、国内外から個性的なミュージシャンが揃いました。ジャズの歴史がスタートして100年が経ち、さらに新たな100年に向かう転換期に、“ダブダブ”のステージは、ジャズの未来を示してくれるかもしれません。“JAZZ NOT JAZZ”という言葉がありますが、ジャズが本来もっている自由な音楽性を、ぜひここで感じ取っていただきたいです。
HMV本部でワールド/ジャズを統括後、現在は<HMV&BOOKS TOKYO>で音楽バイヤーを担当。多数のCDの選曲やライナー・ノーツを手がける他、人気フリーペーパー「Quiet Corner」を監修。今回の東京JAZZ・公式ガイドブックで、監修・編集主幹を務める。