ハービー・ハンコック
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東京JAZZ2003ライブ・レポート ピーター・バラカン

ジャズ・フェスティヴァルといった催し物がジャズだけで賄われたことが果たしてありますでしょうか。少なくとも1959年のあの有名な「真夏の夜のジャズ」にはゴスペル歌手のマヘイリア・ジャクソンも、ロックンローラーのチャック・ベリーも出演していたので、僕は昔からジャズ・フェスティヴァルにはどんな音楽が登場してもおかしくないどころか、どんな音楽でも大歓迎だと思っています。

2度目の東京ジャズで再び総合プロデューサーを務めたハービ・ハンコックは早くもアフリカのミュージシャンをライン・アップに加えました。ユッスー・ンドゥールのお陰でこの15年ほどの間にアフリカのコンテンポラリーな音楽が世界中の音楽ファンに大分認識されてきました。巨大なアフリカ大陸の各地にそれぞれ素晴らしいミュージシャンが大勢おり、少しずつその多様性が日本でも浸透しつつありますが、アフリカの音楽を全く知らない人をまず引きつけるためにはカリスマ性のある規模の大きいアーティストが必要な存在で、ユッスーはまさにそういうミュージシャンです。セネガル人である彼の音楽はキレのあるビートに強烈なバネがあって、使っている楽器編成は主に西洋的なものですが、ものすごいスピードで演奏されるタマ(トーキング・ドラム、日本の鼓にも似ています)と、張り上げるとイスラム世界の独特のコブシが生かされる本人の歌によるユニークなサウンドは観る者をすぐに虜にしてしまうもので、フェスティヴァルには最適のバンドです。今回私を含むかなりの人が彼を一番の目当てに味の素スタジアムに足を運んだはずです。でも、反対に彼の名前すら知らなかった観客も、あのすごい迫力の演奏に出会ったら感心してしまったに違いありません。 演奏し終わったユッスーはNHKのインタヴューに答えて、今度はアフリカの他のミュージシャンと一緒に参加して、2時間ほどのもっと長い、充実した演奏を聞かせたいと話していましたが、私も心からその実現を願いたいです。

ユッスーの後に登場したスピーチという人はヒップ・ホップの世界から出てきた良識あるインテリ・ラッパーとでも言うべきでしょうか。彼はジャズ・フェスティヴァルに出るのが初めてで、東京ジャズに出演しているかなり有名なミュージシャンたちのことを知らないということを率直に認めていました。彼の音楽は多くのヒップ・ホップと違ってすべて人間が楽器を演奏する形をとっています(つまりプログラミングを使用していない)。そのよさがテレビでどこまで伝わるか、若干限界があるような気がしますが、実際に会場で観ているとかつてのソウル・ミュージックとのつながりも感じられるファンキーなノリに気持ち良く乗せられてしまいます。こういうタイプの演奏でヴァラエティを持たせ、東京ジャズを様々な音楽ファンにとって魅力のあるイヴェントにして行くことがとても有意義だと私は思います。

(ピーター・バラカン)