今年もハービー・ハンコックが音楽プロデュースを務めたが、これは正解だったといえる。 現在、音楽家でハービーほど広い視野をもってジャズ・フェスティバルの人選を行い、まとめ上げることができる人は他にちょっと見当たらないからだ。
また、今回出演のアーチストは、かなり広範囲にわたっており、そのまとまり具合がちょっと心配されたが、結果はうまくバランスがとれているのに感心した。
幕開けを飾った前田憲男編曲、指揮、ピアノによるオーケストラ、バンダ・ファンタシアは、好メンバーぞろいで、リッチなサウンドが聴かれ、十分に満足の行くものだった。
元気のいい若者松永貴志のピアノも花を添えたし、前田編曲のアフロ・キューバン・ジャズ「マンテカ」は聴きものだった。初日の幕開けだったので、2日目にももう一度聴きたいほどだった。
昨年のキューバ陣に代わるグループとしてのセネガル共和国出身の歌手兼打楽器奏者ユッスー・ンドゥールは、ナチュラルでうるおいを与えるすばらしい音楽で、東京JAZZの幅を広げる意味でも大きな聴きもののひとつだった。
ハービー・ハンコックは今回最強のメンバーによるアコースティックなトリオの演奏で、高い音楽性を追求して、圧倒的なプレイをみせてくれた。昨年とはがらっと変わる演奏だったが、同じプレイは2度くり返さないという彼のモットーを示した好プレイとして受け取りたい。ジョシュア・レッドマンのエラスティック・バンドは広い会場を意識した演奏で、ハモンド・オルガンを用いて広がりのあるサウンドを聴かせたが、彼のサックス・プレイはやはり説得力がある。2日目は上半身はだかになっての熱演に、彼の意気込みのすごさが感じられ、好感がもてた。
ダイアナ・クラールの来日中止は残念だったが、チャカ・カーンはスタンダードからソウル・ナンバーを歌い、その熱唱はかなり穴を埋めてくれたといえる。また彼女の歌とハービーのトリオが共演したのは、けがの功名ともいうべきで、めったに聴けない貴重な組合わせで、大いに感激し、スリルを感じた。スピーチも若者には歓迎されたようであり、演奏にも一生懸命な姿勢がみられた。
今年も日本のアーチストたちは充実していた。寺井尚子は昨年のスーパー・ユニットですっかり自信をつけて、東京JAZZの花となった。ケイコ・リーの落ち着いたジャズ・ヴォーカルもすてきだったし、松永貴志の明るくて天真爛漫の明るいプレイは野外のジャズ祭向きで楽しい。渡辺香津美とリチャード・ボナの取り合わせも悪くない。
ただ、時間制限のためか、今年のスーパー・ユニットは少々短い感があった。
また、来年はぜひ、いまジャズ・シーンに刺激を与え、ジャズの活性化に対して大きな役割を果たしつつあるキューバの音楽家たちの参加を望みたい。
(岩浪洋三) |